研究紹介

半導体の先の、更に一歩先へ

情報社会と称される現在は、高度な電荷制御を実現する半導体デバイスに支えられています。一方、磁気工学と電子工学の学際領域であるスピントロニクスは、半導体デバイスに新たな価値を与える次世代の情報記録デバイスを創出しています。これまで強磁性金属を中心に研究が進められてきましたが、近年、新たにバンドギャップのある材料系への注目が高まり、革新的スピンデバイスが多数提案されています。
 電子スピン物性工学研究室では、この新スピントロニクス材料を舞台に、スピン流の生成、輸送、および検出の学理を探求し、スピンデバイスをさらに発展させます。我々は、半導体を進化させるスピンデバイスの 更に先を見据えた未来デバイスを追求します。

磁性ガーネット物性工学

1956年に初めて製造されて以来、磁性ガーネットは磁気光学とスピン動力学の中心的材料として研究されてきました。高い可視光透過率と低い磁化ダンピングという特質のためです。一方、これらの性質は電気的に絶縁体であることと表裏一体であり、電気的に磁化を制御することはスピン移行トルク等の従来スピントロニクス技術では不可能でした

近年スピンオービトロニクス技術と成膜技術の発展により、2016年に初めて電流誘起磁化反転が実証されました [Nat. Mater. 16, 309 (2017) ]。これにより、他の磁性体とは一線を画す磁性ガーネット特質を活用した集積デバイスが複数提案され、現在スピンオービトロニクスのフロンティアとなっています。我々は、世界最大規模の極薄膜磁性ガーネット作製手法を開発し、スピンオービトロニクス時代における磁性ガーネット物性工学の発展に貢献しています。

主な成果

シリコンスピントロニクス

半導体シリコンは現在の情報社会を基盤をなす電子工学の王様ともいえる材料ですが、スピントロニクスにおいても同様に重要材料として認識されています。シリコンは3次元結晶材料においてずば抜けて長いスピン拡散長を有するためです。固体中の伝導電子スピン流はスピン拡散長のスケールで減衰し、スピン拡散長が長いほど長距離のスピン輸送が可能となります。シリコンの長スピン拡散長は、ダイヤモンド型結晶構造のため空間反転対称性を有すること、スピン軌道相互作用が小さいことという性質に起因します
 シリコンにスピン流を生成するためには、伝導電子が有限のスピン偏極を有する材料で、電極を形成することが必要です。また、すべての電子デバイスでは半導体の性能を引き出すためにオーミックコンタクトが必要であることから、低抵抗かつスピン偏極な材料開発はシリコンスピンデバイスにおけるキーテクノロジーとなります。我々は、このキーテクノロジー開発に取り組み、磁性体の仕事関数制御により世界で初めて、半導体シリコンに高効率にスピン偏極電流を生成するための新たな電極材料を開発しました。現在、半導体製造業の世界トップ企業と連携しデバイス応用に向けた研究に取り組んでいます。

主な成果

スピンカロリトロニクス

スピンカロリトロニクスは、熱の単位であるカロリーとスピントロニクスを組み合わせて生まれた言葉で、熱電物性とスピン角運動量の相互作用を解明する学術分野です。2008年のスピンゼーベック効果の報告を端緒に、熱からスピン流を生成する新奇現象が多数報告されてきました [Nature 455, 778 (2008)]。我々は、代表的な熱電変換現象であるゼーベック効果のスピン流版であるスピン依存ゼーベック効果等について研究しています。熱を利用して強磁性体から非磁性体へスピン流を生成することができるため、CMOSなどの半導体デバイスで生じるジュール熱をスピン流を介して再利用することができます。これにより、スピン注入効率の向上に加え、エネルギーの効率的利用に貢献できる可能性があることを、実験と理論により世界で初めて示しました

主な成果

N. Yamashita, Y. Ando, M. Shiraishi et al., Physical Review Applied 9, 054002 (2018). 日刊工業新聞に記事掲載.